
こんにちは。
さかつめ整骨院鍼灸院の坂爪 慶です。
現場の先生から寄せられた実際の相談をもとに、整形外科的な視点と保存療法のアプローチの違いについて深掘りしていくシリーズの第5回をお届けします。
症状のおさらい

今回の症例:60代 女性
右手親指の付け根に引っかかり感があり、朝方に指が伸びにくく、曲げ伸ばしの際にカクンと弾かれるような感覚があるケースです。
整形外科で弾発指(バネ指)と診断され、ステロイド注射を2回受けたものの、効果は一時的で再発を繰り返していました。
最近ではPIP関節(第2関節)が完全に伸びきらない状態も出始め、医師からは「手術も選択肢」と提案され、ご相談に来られたという経過をたどっています。
このケースについて、同業の先生方からよくいただく2つの疑問点にお答えする形で紐解いていきます。
① 炎症期と拘縮期はどう見極めるのか?

バネ指の臨床における最大のポイントは、症状の進行段階を正確に見極めることにあります。
一般的に、初期は腱と腱鞘の摩擦による「炎症期(腫れて引っかかっている時期)」、経過が長引くと屈筋腱が周囲組織と癒着していく「拘縮期(固まってしまっている時期)」へと移行していきます。
両者では病態の本質も、保存療法で期待できる改善度合いも大きく異なるため、対応を切り替える判断軸を持っておくことが必要なのです。
見極めの中心となるのは、PIP関節(第2関節)の伸展制限の有無です。
指が単に曲げにくい、引っかかる、という段階であれば、腱鞘内の炎症と腱の肥厚が主体と考えられ、保存療法での鎮静化が十分に期待できます。
しかし、PIP関節が完全に伸びきらない、自動でも他動でも伸展制限が残るという所見が出てきた段階は、屈筋腱が周囲と癒着し、拘縮期に入っていると判断する目安になります。
治療期間の目安としても、この見極めは重要な意味を持ちます。
炎症主体の引っかかりだけであれば、手技や機器による保存療法で比較的早期の改善が見込めます。
一方、癒着・拘縮まで進行しているケースでは、保存療法で半年程度を要することも珍しくなく、患者様のQOLや生活背景を踏まえると、場合によっては手術適応として医療機関への送り出しを検討した方が良いケースも出てきます。
「どこまで保存で粘るのか」「どの段階で送るのか」の線引きを持っておくことは、我々施術家にとって臨床判断の精度を上げる大切な視点と言えます。
② ステロイド注射と手術、それぞれのリスクとは?

医療機関で選択される処置の主軸は、ステロイド腱鞘内注射と腱鞘切開術になります。 それぞれに明確なメリットがある一方で、見過ごせないリスクが存在することは押さえておきたい点です。
ステロイド注射の落とし穴
ステロイドの腱鞘内注射は、腫れや炎症を即座に抑える効果があり、特に炎症期の急性症状には有効な選択肢です。
しかし、繰り返し打つことで腱の組織自体が脆弱化し、最悪の場合は腱断裂のリスクを伴うことが知られています。 一般的には一度注射すれば3ヶ月程度は効果が持続すると言われています。(効果発現まで4週間以上かかる場合もある)
2回目は少なくとも8週以上空けての注射となることが多いです。
そして3回ほどが上限とされる施設が多く、これを超えるとリスクが顕在化しやすくなるというのが実情です。
今回の60歳女性のケースのように、2回打って効果が一時的で再発を繰り返しているのであれば、これ以上の追加注射は慎重に判断すべき局面に入っていると考えられます。
腱鞘切開術の2つの術式
肥厚した腱鞘を切開する手術には、大きく分けて2つの術式があります。
一長一短があり、患者様の生活背景や希望によって選択が分かれる部分です。
ひとつは切開法(オープン法)で、メスで患部を直接切り開き、目視で腱鞘を確実に切離していく方法です。
確実性が高い一方で、傷跡が残ること、抜糸が必要なこと、術後約2週間は手が思うように使えないことがデメリットとして挙げられます。
もうひとつはガイド法(小切開・経皮的腱鞘切開)で、小さな穴から器具を入れ、ブラインド(直視下ではない状態)で腱鞘を切離する方法です。
傷が小さく抜糸も不要というメリットがある反面、目視で確認できないために処置が乱暴になりやすく、腱鞘が完全に切れずに「切り残し」が発生し、術後も引っかかりが残ってしまう失敗リスクが懸念されています。
医師がどちらの術式を選択しているか、術後にどのような経過をたどっているかを確認しておくと、術後リハビリ段階で当院にいらした患者様への対応にも幅が出てきます。
筋肉と骨配列を見逃さないために(施術家の視点)

医師が腱と腱鞘というローカルな構造を診るのに対し、我々施術家は「なぜその指に過剰な負担がかかり続けたのか」という全身的な背景を診ることができます。
バネ指は手の使いすぎが背景にあるケースが圧倒的に多く、局所の炎症を抑えるだけでは再発を繰り返すことになりがちです。
「ニューボックス」は炎症期・拘縮期のどちらにも効果を発揮する

炎症期にあたる初期段階では、ニューボックス(微弱電流治療機器)という機器を用い、即時効果を出すことができます。
ニューボックスは炎症期の対応だけでなく、拘縮期にも高い効果を発揮します。
特に拘縮期には、プレートを介して持続的に微弱電流を流すアプローチが効果的です。
微弱電流は組織レベルでの治癒促進に働き、ステロイド注射のような腱への侵襲リスクを伴わずに炎症の鎮静化が期待できます。
注射回数の上限を意識して追加投与を控えたい局面や、癒着が進行した拘縮期まで幅広く使い分けが利く点で、臨床的な活用幅が広い手段と言えます。
手根骨の配列を整え、指の動きやすさを取り戻す


手の使いすぎが原因である以上、指単独ではなく手関節から上肢全体の負担分散を診る視点が欠かせません。
特に舟状骨をはじめとした手根骨の配列が崩れていると、手首の角度が崩れ、指の屈筋腱への負担が連鎖的に増大していきます。
出っ張っている手根骨を本来の位置に収め、手首の角度を整えるだけで、指の開きやすさや動きが改善するケースは少なくありません。
さらに、手首だけでなく肘・前腕・肩甲帯からの連鎖した負担まで追って調整することで、再発リスクを下げる土台が整っていきます。
夜間のキャスト固定で炎症期の屈曲を制限する
炎症が強い時期には、夜間に指が屈曲位で固まらないよう、キャストで指輪のような固定具を作り、屈曲を制限する工夫も有効な手段です。
日中の動作でどうしても炎症を悪化させてしまう患者様に対しても、就寝時の指の肢位をコントロールするだけで、朝の引っかかり感が軽減することがあります。
注射や手術に踏み切る前に、こうした保存的な工夫の余地が残されているケースは、臨床上意外に多いのです。
まとめ

今回のケースで改めて感じるのは、バネ指というシンプルに見える疾患のなかにも、炎症期と拘縮期という明確な病期の違いがあるということです。
PIP関節の伸展制限という1つの所見を基準に持っておくだけで、「保存で粘るのか」「医療機関での処置を検討すべきか」の判断軸を持つことができます。
ステロイド注射や腱鞘切開術には、それぞれ明確な医学的意義があり、医師の処置を表面的に否定するものではありません。
ただし、回数制限を超えると断裂リスクを伴うステロイド注射、術式によって切り残しのリスクが残る腱鞘切開術といった選択肢の背景を理解した上で、注射や手術に踏み切る前に保存療法で介入できる余地を見極めることが、我々施術家の役割と言えます。
微弱電流による炎症期の鎮静化、手根骨や上肢全体の配列調整、夜間のキャスト固定による屈曲制限といったアプローチは、どれも局所の腱鞘だけを診ていては出てこない発想です。
整形外科の治療方針を理解しつつ、我々だからこそできる「筋肉・骨配列・動作」の視点で、患者様の手の機能と生活の質を支えていきましょう。
今回の症例が、日々の臨床の参考になれば幸いです。
【柔道整復師・鍼灸師 坂爪 慶 監修】


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