
膝の水腫と筋機能シリーズ(全3回) 第2回
こんにちは。
さかつめ整骨院鍼灸院の坂爪 慶です。
膝に水がたまることが下肢全体の連鎖にどう波及するのかを、エビデンスと臨床像の両面から整理していくシリーズの第2回をお届けします。
前回は、膝に水がたまると内側広筋(VMO)が関節原性筋抑制(AMI)によって真っ先に落ちる、という話をしました。
現場ではさらにその先に、「内側広筋が痩せると、股関節の中殿筋も痩せ、一歩踏み出したときに膝が内側に入る(ニーイン)。しかもそのとき大腿筋膜張筋(TFL)がガチガチに硬くなって中殿筋の働きを邪魔している」という説明がよく語られます。
この連鎖は、臨床像としては非常によく見かけるものです。
しかし、因果の向きについては丁寧に扱う必要があります。
個々の要素にはエビデンスがある一方で、「Aが起きるから必ずBが起きる」という一方向の因果として結んでしまうと、行き過ぎになる部分があるからです。
この回では、裏付けのある部分と、相関として理解すべき部分を切り分けて整理します。
裏付けのある部分

膝疾患と股関節外転筋(中殿筋)の弱化は併存しやすい。
症候性の膝OA患者では、股関節周囲筋の筋力低下が併存することが、系統的レビュー・メタアナリシスで示されています。
股関節外転筋を含む下肢筋の筋力・筋量の低下も報告されており、「膝が悪い人は股関節周りも落ちていることが多い」という臨床印象は、データと整合します。
中殿筋の機能低下は動的膝外反(ニーイン)につながる。
片脚荷重や着地の局面で中殿筋が十分に働かないと、股関節の内転・内旋が制御できず、膝が内側に入る dynamic knee valgus(動的膝外反=ニーイン) が生じやすくなります。
これはバイオメカニクスの研究や系統的レビューで支持されている、比較的確立した関係です。
中殿筋が弱いとTFLが代償して過活動・タイトネスに陥りやすい。
中殿筋(特に前部線維)とTFLは、ともに股関節の外転・安定化に関与します。
中殿筋の出力が落ちると、TFLがその役割を肩代わりして過活動になり、硬く張った状態になりやすい——という代償パターンは、臨床で広く記述されています。
ここまでは、現場の説明の骨格を支える妥当な内容と言えます。
慎重に扱うべき部分

一方で、「内側広筋が萎縮するから中殿筋も痩せる」という直接の因果連鎖は、そのままの形では裏付けが弱い点に注意が必要です。
AMIは基本的に、水腫や損傷のあるその関節の周囲筋に及ぶ反射です。
膝の水腫が脊髄反射を介して直接、股関節の中殿筋を抑制して痩せさせる、という機序を一直線に示した根拠はありません。
膝疾患に伴う中殿筋の弱化は、むしろ痛みによる活動量の低下、跛行、荷重・運動パターンの変化といった要因を介した、二次的・間接的なものと理解するのが妥当です。
つまり内側広筋の萎縮と中殿筋の弱化は、「片方がもう片方を直接引き起こす」というより、「同じ膝の問題を背景に併存しやすい」相関・共起として捉えるのが正確です。
「TFLがガチガチだから中殿筋の活動を邪魔している」という表現も同様です。
TFLの過活動と中殿筋の抑制はしばしば同時に観察されますが、どちらが原因でどちらが結果かは症例によって異なり、一方向に断定はできません。
TFLを緩めれば自動的に中殿筋が働き出す、と単純化せず、両者の関係は個々のケースで評価する姿勢が求められます。
現場での使い方

この連鎖を臨床で使うときのポイントは、「膝の水腫 → 内側広筋 → 中殿筋 → ニーイン → TFL」という流れを、因果の鎖ではなく、併存しやすいチェックリストとして持っておくことです。
膝に問題がある選手を診たら、四頭筋だけでなく、股関節外転筋の出力、片脚での動的膝外反の有無、TFLの緊張——これらを一連のセットとして評価します。
そのうえで、どこがボトルネックになっているかは個別に見極めます。
「Aだから必ずB」と因果を固定してしまうと、実際にはTFLが主因ではないケースや、中殿筋がそれほど落ちていないケースを見誤ります。
相関として広く網を張り、因果の矢印は目の前の身体で確認する——これが、この連鎖を安全に使うための構えです。
次回は、第1回で登場した「H反射」を掘り下げます。
AMIを客観的に測るこの指標が、名前のよく似た病的反射「ホフマン徴候」とはまったくの別物である、という紛らわしいポイントを整理します。
出典
- Hip Strength Deficits in People With Symptomatic Knee Osteoarthritis: A Systematic Review With Meta-analysis. JOSPT — https://www.jospt.org/doi/10.2519/jospt.2016.6618
- Understanding and Exercise of Gluteus Medius Weakness: A Systematic Review. — https://www.ptkorea.org/journal/view.html?doi=10.12674%2Fptk.2021.28.1.27
- Atrophy of hip abductor muscles is related to clinical severity in a hip osteoarthritis population. Clinical Anatomy — https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ca.23064
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。
【柔道整復師・鍼灸師 坂爪 慶 監修】


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