【臨床考察|膝の水腫と筋機能 第3回】同じ「ホフマン」でも別物 〜H反射とホフマン徴候の違い〜

膝の水腫と筋機能シリーズ(全3回) 第3回(最終回)

こんにちは。
さかつめ整骨院鍼灸院の坂爪 慶です。

『膝の水腫と筋機能』シリーズも、今回の第3回で最終回となります。

第1回で、膝の水腫による筋抑制(AMI)を測る指標として H反射(Hoffmann reflex) が登場しました。
この名前を聞いて、神経学的診察で出てくる病的反射の 「ホフマン徴候(Hoffmann sign)」 を思い浮かべた先生もいらっしゃるかもしれません。

結論から言うと、この2つは名前に同じ「ホフマン」が付いているだけで、目的も方法もまったく異なる別物です。
現場でも混同されやすいところなので、この最終回で両者をはっきり切り分けておきます。

H反射(Hoffmann reflex)——生理学的な検査

H反射は、末梢神経の感覚線維、具体的には筋紡錘から出る Ia求心性線維 を電気刺激することで誘発される、筋の反射反応です。
腱を叩いて起こす伸張反射(腱反射)と経路が近いため、しばしばその「電気刺激版」と位置づけられます。

ただし決定的な違いがあります。
H反射は 筋紡錘(受容器)を介さず、感覚線維を直接刺激する 点です。
このため腱反射のような定性的なデータではなく、潜時や振幅といった定量的な値が得られ、被験者間の比較に向いています。

M波との対比も特徴的です。
刺激後、運動神経が直接刺激されて生じるM波は3〜6ミリ秒と早く現れるのに対し、脊髄を経由するH波(H反射)は28〜35ミリ秒と遅れて出ます。
また刺激強度との関係が逆で、刺激を強くしていくとM波の振幅は増大する一方、H波は減少し、やがて消失します。

臨床神経生理学では、H反射は 運動ニューロンプールの興奮性を評価する道具 として使われます。
第1回で触れたAMIの話につなげると、膝に水がたまって求心性入力が変化し、運動ニューロンへの抑制が強まると、同じ刺激を与えてもH反射の振幅が小さくなります。
この振幅低下が、AMIが実際に脊髄レベルで起きていることの客観的な指標になるわけです。

要するにH反射は、正常でも誘発される反射を利用した測定手法であり、それ自体が病気の徴候というわけではありません。

ホフマン徴候(Hoffmann sign)——病的反射の診察手技

一方、病的反射としての ホフマン徴候 は、神経学的診察で行う手技です。
患者様の中指の爪を下方へはじく(フリックする)と、陽性の場合に親指(および示指)が不随意に屈曲・内転する反応が観察されます。

この陽性所見は、上位運動ニューロン障害・皮質脊髄路(錐体路)の機能異常 を示唆します。
背景としては頸髄の圧迫などが多いとされます。
ただし注意点として、脊髄圧迫や神経疾患がなくても、一般人口の最大3%程度で陽性になり得ることも指摘されています。
したがって単独で確定的な所見とはせず、他の徴候や画像と併せて解釈するものと考えられます。

一覧で整理する

H反射(Hoffmann reflex) ホフマン徴候(Hoffmann sign)
種類 神経生理学的な検査・測定 神経学的診察の手技(病的反射)
誘発方法 末梢神経のIa求心性線維を電気刺激 中指の爪を下方へはじく
見るもの 筋の反射反応の潜時・振幅 親指・示指の不随意な屈曲
意味づけ 運動ニューロンプールの興奮性の指標 上位運動ニューロン・錐体路障害の示唆
正常/異常 正常でも誘発される反射を測定に利用 陽性は病的徴候(ただし健常でも一部陽性)

まとめ

同じ「ホフマン」でも、H反射は「電気刺激で誘発して運動ニューロンの興奮性を測る生理学的検査」、ホフマン徴候は「指をはじいて誘発し錐体路障害を疑う病的反射(診察手技)」——これだけ性格が違います。
文献上も、両者は別の文脈で扱われており、たとえばホフマン徴候の臨床解説では電気刺激によるH反射との比較は登場しません。

膝の水腫からAMI、その測定指標としてのH反射までを追ってきたこのシリーズの締めくくりとして、「名前が同じでも中身は別」という、臨床用語のよくある落とし穴を押さえておくと、我々施術家も先生方との情報共有の場で混乱を避けられるはずです。


出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。

【柔道整復師・鍼灸師 坂爪 慶 監修】

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