【症例ケーススタディ第8回】「治らない五十肩」の正体はリウマチ性多発筋痛症だった 〜主訴は片側でも、サインは両側に出ていた〜

肩関節

こんにちは。
さかつめ整骨院鍼灸院の坂爪 慶です。

現場の先生から寄せられた実際の相談をもとに、整形外科的な視点と保存療法のアプローチの違いについて深掘りしていくシリーズの第8回をお届けします。

症状

肩の痛みに悩む女性

今回の症例:56歳 女性(会社員・介護職)
既往歴:特記なし

母指の痛み(バネ指を疑う症状)で施術院に通院中だった患者様です。
医科ではMRI撮影のうえ、母指CM関節症に伴う滑膜炎と診断されていました。

経過中に左肩の疼痛が出現しました。
並行して受診していた整形外科では「五十肩(肩関節周囲炎)でしょう。そのうち良くなります」との説明で経過観察となりました。
しかし疼痛は軽快するどころか増悪し、挙上が徐々に困難になっていきます。
患者様ご本人は「腱が切れてしまったのではないか」と腱板断裂を強く不安視されていました。
本人の希望もあって整形外科から他院へ紹介となり、精査の結果、診断はリウマチ性多発筋痛症(PMR:polymyalgia rheumatica)。
肩関節内に水腫を認め、血液検査ではCRPの上昇がみられました。
手関節の症状についても、同疾患由来の可能性が高いとの医師の見解でした。

そして、この症例には見逃せない事実がもう一つあります。
振り返れば初診時から、痛みの少ない側も含めて両肩の挙上しづらさがあったのです。
痛みの主訴は左肩に偏っていました。
しかしPMRらしい両側性のサインは、最初から存在していたことになります。

このケースについて、同業の先生方からよくいただく3つの疑問点にお答えする形で紐解いていきます。

① なぜ「五十肩」と診断されたのか 〜整形外科の視点〜

まず押さえておきたいのは、初診時に「五十肩」と判断されたこと自体は、決して不自然ではないという点です。

肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)は中高年の肩痛の中で最も頻度が高く、外来では「肩が痛い・挙がらない」という主訴の第一想起になります。
そして単純X線は、五十肩でもリウマチ性多発筋痛症でも特異的な異常が写らないことがほとんどです。
つまり「X線で骨に異常がない+中高年の肩痛」という情報だけでは、両者は画像上区別がつかないのです。

さらに今回のケースには、判断を「五十肩」側へ引っ張る要素が重なっていました。

一つは、痛みの主訴が左肩に偏っていたことです。
リウマチ性多発筋痛症は両側性の疾患ですが、痛みの訴えの強さまで左右対称とは限りません。
「痛いのは左」という主訴を入り口にすると、両側の挙上しづらさ・こわばりというPMRらしいサインは、主訴の陰に隠れてしまいます。

もう一つは、介護職という職業背景です。
肩を酷使する仕事であることは、「使いすぎによる肩の痛み」「年齢的な五十肩」という機械的な解釈を自然に後押しします。
もっともらしい説明が最初に成立してしまうと、その先の鑑別は進みにくくなる。
これはどの部位の臨床でも起こる、認知の落とし穴と言えます。

「五十肩と診断されたから五十肩である」とは限らない、というのが実情です。
では、五十肩の顔をして現れる疾患には、他にどのようなものがあるのでしょうか。

「五十肩」の顔をした疾患たち 〜鑑別リストの実像〜

肩は、「五十肩」として経過観察されるうちに見逃されやすい疾患が特に多い部位です。
ここでは、我々施術家が臨床で実際に遭遇しうる代表格を2つ取り上げます。

石灰沈着性腱板炎 〜「昨日まで何ともなかった肩」の激痛〜

腱板内にリン酸カルシウム結晶が沈着して起こる疾患で、中年以降の女性に多いとされます。

急性型の発症様式は特徴的です。
「昨日まで何ともなかった肩が、夜間に突然、激痛で動かせなくなった」。
この経過は、数週〜数ヶ月かけて緩徐に進行する五十肩とは明らかに異なります。

もう一つの特徴は、単純X線で石灰化陰影として確認できることです。
画像に写らない疾患が多い肩の鑑別において、X線で拾える数少ない例外と言えます。

臨床で注意したいのは、肩全体がパンパンに腫れ、熱感を伴って蜂窩織炎様の外観を呈するケースです。
この像を見たら、施術で粘る場面ではありません。
ステロイド注射(必要に応じて穿刺吸引)への反応が劇的に良い疾患であり、早期に医科へつなぐことが患者様の苦痛を最短で終わらせる選択になります。

神経痛性筋萎縮症 〜「痛みがないのに挙がらない」肩〜

もう一つ、知っておきたいのが神経痛性筋萎縮症(Parsonage-Turner症候群)です。

典型的な経過は二相性です。
まず肩から上腕にかけての急性の激痛が先行し、その痛みが軽快した頃に、入れ替わるように麻痺と筋萎縮が顕在化します。
結果として「痛みはもうないのに、腕がまったく挙がらない」という、腱板断裂を思わせる臨床像を呈します。

MMTは3以下まで低下し、三角筋や棘上筋・棘下筋の萎縮が目に見えて進行します。
「挙上不能=腱板断裂」と思い込むと、この疾患を素通りしてしまいます。

施術家として押さえるべきポイントは、疼痛と筋力低下の乖離です。
痛みで挙がらないのか、力が入らずに挙がらないのか。
この二つを問診と徒手検査で切り分けるだけで、鑑別の精度は大きく変わります。

② リウマチ性多発筋痛症とはどのような疾患か

医療機関での検査と診断

名称に「リウマチ性」と付いていますが、関節リウマチとは別の疾患です。
リウマトイド因子や抗CCP抗体は原則として陰性で、関節リウマチのような関節破壊・変形は起こしません。

疫学的には50歳以上、特に高齢者に好発します。
症状の中心は、肩・頸部・腰臀部・大腿部といった体幹に近い部位の疼痛とこわばりです。
なかでも肩の症状は最も高頻度とされ、報告により70〜95%に出現します。
「肩から始まる全身炎症性疾患」と捉えておくと、臨床像をイメージしやすいと言えます。

問診上の手がかりとしては、次の点が重要です。

朝のこわばり。
起床時に強く、動き出すと軽快するパターンを取ります。

全身症状。
微熱・倦怠感・食欲低下・体重減少などを伴うことがあります。

血液検査の炎症反応。
CRP・赤沈の上昇がみられます。
逆に、これという特異的検査所見に乏しいため、診断は他疾患を除外しながら進める除外診断の性格が強くなります。
今回の症例でも「所見に乏しく、除外していってこれだろう」という診断プロセスでした。

なお、PMRは肩・腰といった近位部だけでなく、末梢関節の滑膜炎を伴うことがある点も知っておきたいところです。
本症例では、肩に先行していた母指の症状が医科で「CM関節症に伴う滑膜炎」と診断されていました。
確定的なことは言えませんが、振り返れば、この手の炎症も全身性炎症の部分症状だった可能性が考えられます。
「別々の場所の、別々の炎症」に見えていたものが、一つの疾患で説明がつく。
除外診断のプロセスでは、こうした「点と点がつながる瞬間」がしばしば訪れます。

治療については、少量ステロイドへの反応が劇的に良いことが知られており、予後は比較的良好です。
だからこそ、発見の遅れで患者様が痛みを抱え続ける期間を延ばしてしまうことが、この疾患の一番の問題と言えます。

見逃してはならない合併症 〜巨細胞性動脈炎(GCA)〜

リウマチ性多発筋痛症を語るうえで、絶対に外せない知識がもう一つあります。
巨細胞性動脈炎(GCA:giant cell arteritis)の合併です。

GCAは大型血管の血管炎で、リウマチ性多発筋痛症の患者様の一部(報告により10〜20%程度)に合併するとされます。
問題は、この疾患が失明に直結しうることです。

チェックすべき症状は明確です。

第一に、これまで経験のないタイプの側頭部の頭痛、こめかみ部の圧痛。
第二に、顎跛行。
食事で噛んでいると顎が疲れて痛くなり、休むと楽になるという症状です。
第三に、視覚症状。
一過性でも、視野が欠ける・霧がかかる・二重に見えるといった訴えがあれば、その日のうちに医科受診が必要なレベルの緊急性があります。

PMRと診断された患者様、あるいはそれを疑う患者様が来院されている場合、この3点の問診をルーチンに組み込んでください。
「肩の病気の続き」と思っていた症状の陰で、眼への血流が脅かされている可能性があるからです。
これは施術で様子を見てよい症状ではなく、真のレッドフラッグです。

五十肩とPMRはここで分かれる 〜対比早見表〜

ここまでの内容を、臨床で使いやすいように対比表として整理します。

項目五十肩(肩関節周囲炎)リウマチ性多発筋痛症(PMR)
発症様式緩徐(数週〜数ヶ月かけて進行)比較的急(数日〜数週で完成することも)
側性片側が多い両側が典型(ただし痛みの主訴は片側に偏ることもある)
痛みが強い時間帯動作時・夜間(患側を下にすると痛む)早朝が最強。動き出すと軽快
こわばり目立たない30分以上続く朝のこわばり
可動域制限拘縮期には他動でも制限される疼痛性の制限が主体(他動は比較的保たれる)
全身症状なし微熱・倦怠感・食欲低下・体重減少
血液検査異常なしCRP・赤沈が上昇
自然経過時間とともに軽快傾向無治療では持続・増悪
治療反応リハビリ・施術で徐々に改善少量ステロイドが著効

ただし、この表はあくまで典型像の対比です。
今回の症例のように、両側性の疾患でも痛みの訴えは片側に偏ることがあります。
一項目の一致・不一致で決めつけず、複数の手がかりを重ねて確からしさを上げていく使い方をしてください。

③ 我々施術家はどこで気づけるか 〜施術家の視点〜

施術院での経過観察

今回のケースで紹介のきっかけになったのは、高度な検査機器ではありません。
「施術への反応が積み上がらない」という経過の違和感と、患者様の不安を受け止めて医科の精査を後押しした判断です。

五十肩を含む一般的な運動器の肩痛であれば、適切な施術に対して、経過は波がありながらも改善方向に積み上がっていきます。
ところが炎症性疾患が背景にある場合、施術直後は楽になっても数日で戻る、あるいは全体として増悪していくという経過を辿ります。
この「経過が施術に見合わない」という感覚は、毎回同じ手で患者様に触れている我々施術家だからこそ持てる、最も鋭敏なセンサーと言えます。

そのうえで、検査と問診に次の4点を加えることをおすすめします。

第一に、主訴と反対側の肩も、必ず自分の手で挙げて確かめること。
本症例の最大の教訓はここにあります。
「痛いのは左」という訴えのまま左だけを診ていれば、両側の挙上しづらさというPMRらしさには気づけません。
反対側を挙げてもらうだけの、数秒の検査です。

第二に、朝のこわばりの有無と持続時間。
第三に、微熱・倦怠感・食欲や体重の変化といった全身症状。
第四に、肩以外の部位(頸部・腰臀部・大腿・手指)のこわばりや腫れ。

これらが揃ってくれば、「五十肩らしくない何か」を疑う根拠になります。
血液検査一つ(CRP)で拾える手がかりがある以上、迷ったら医科へ、というのが最も安全な選択です。

もう一つ強調したいのは、医科との併診を否定しないことの価値です。
今回の患者様は、施術院と整形外科の両方に通っていたからこそ、「整形では五十肩と言われているが、経過がおかしい」という比較の視点が生まれました。
整形外科の診断を尊重しつつ、経過を最もよく知る立場から再精査の必要性を伝える。
この補完関係こそ、我々施術家が担うべき役割と考えられます。

まとめ

今回のケースから整理したいのは、次の3点です。

第一に、「五十肩」は最終診断ではなく、経過で検証し続けるべき作業仮説であるということ。
単純X線で異常がないことは、五十肩の確定を意味しません。
石灰沈着性腱板炎のように画像で拾える例外もあれば、神経痛性筋萎縮症のように「痛みと筋力低下の乖離」でしか気づけない疾患もあります。

第二に、両側性の疾患でも、痛みの主訴は片側に偏ることがあるということ。
主訴に引っ張られて患側だけを診るのではなく、反対側の肩を挙げてもらい、朝のこわばり・全身症状・炎症反応という手がかりを問診と紹介判断に組み込むことが重要です。
そして診断がついた後も、巨細胞性動脈炎の3症状(頭痛・顎跛行・視覚症状)の確認を怠らないこと。

第三に、「施術への反応が積み上がらない」という違和感は、我々施術家が持つ最も価値のあるレッドフラッグ・センサーであるということ。
適切なタイミングでの医科への紹介は、施術の敗北ではなく、患者様からの信頼を最も確実に積み上げる臨床判断です。

今回の症例が、日々の臨床の参考になれば幸いです。

【柔道整復師・鍼灸師 坂爪 慶 監修】

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